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キタキツネ(北狐)、Sachalin red fox、学名:Vulpes vulpes schrencki、哺乳綱食肉目イヌ科の動物
 樺太(サハリン)、北海道、南千島に分布するキツネの亜種。頭胴長62〜78センチ、尾長38〜44センチ、後足長16〜18センチ、耳介長8〜9センチ。
 本土のホンドギツネに似るが、後ろ足と耳介が大きく、毛色が鮮やかな橙褐色で白い差し毛が少なく、前後足の前面に大きな黒班がある。
 ホンドギツネは、本州、四国、九州に生息し、耳介と後ろ足が短く、それぞれ7〜7.5センチ、14〜15センチ、四肢の前面の黒班が細く、背面の毛は褐色を帯ひ、黄褐色の差し毛が多く、キタキツネほど美しくない。
(狐の形態)体はオオカミやジャッカルなどイヌ属に似て小さい。頭骨はイヌ属のものより細く、吻(ふん)が細長く先がとがり、前頭洞が小さいため額が高くならず、上の犬歯は異常に細長くて先が鋭く、その先端は口を閉ざしたとき下あごの下縁に達する。目は鼻筋より低く位置し、瞳孔は明るい所では縦長の針状になる。耳介は三角形で先がとがり、尾は太く、横断面が円形で長く、その基部背面に黒班があり、この部分の皮膚にはキツネ特有の強いにおいを出すスミレ腺という臭腺がある。
(狐の生態)低地から標高4500メートルの高地までの半砂漠地帯から草原、森林に至るあらゆる環境に分布し、きわめて適応力が強く、村落の近く、ときには都市にも住む。普通は単独で暮らすが、交尾期に雌雄がつがいになると、雄は生まれた子が大きくなるまで雌と一緒に暮らし、食物を運ぶ。つがいが終生続くかどうかは確認されていない。行動圏は約100ヘクタールまたはそれ以下で、その中には主に使う巣穴、補助の穴、休息所、狩り場、食物を貯蔵する穴、日光浴の場所、サインポスト(尿と糞をする場所)などがあり、通路がそれらを結ぶ。昼間は地中に堀田巣穴か茂みの中で休み、主に夜間に活動しも一晩に円を描いて8キロぐらい歩くが、交尾期と子を育てている時期には昼間も活動する。時速48キロで走り、2メートルの垣根を飛び越すことができ、泳ぎも巧みである。また、ある程度木にも登れる。巣穴は土の軟らかい、水はけの良い斜面の、低木などが覆いになっている所に自分で掘って作り、穴によって何年、また何代も使う。雑食性で昆虫、魚、カエル、鳥とその卵、小形の哺乳類、果実、ブドウ其の外の液果などを食べるが、ノネズミとウサギを食べることが多い。ノネズミをを狩るときには、耳を傾けてネズミが穴から出て来るのを静かに立って待ち、草やぶに出てきたのをとらえる。ウサギを狩るときは、忍び寄り、近くから急に追いかける。また死んだふりや病気で苦しむありをしてウサギやカラスをおびき寄せ、あるいは頭に水草をのせて静かに泳ぎ、水に浮かぶカモに近づいてとらえるも言われる。一日に0.5〜1キロの餌を食べ、満腹のときは穴を掘って獲物を入れ、土をかけて隠し、あとで掘り出して食べる。声は多様で38種類が区別されている。交尾期には雌はコン、コン、雄はギヤー、ギヤーと鳴く。天敵はオオカミ、オオヤマネコ、クマ、ワシ、ワシミミズクなどである。
(狐の繁殖)交尾期は地方によって異なり、ヨーロッパ南部では12月から翌年1月、中部では1、2月、北部では2〜4月であるが、北アメリカでは地域差がないといわれる。この時期には一匹の雌を数匹の雄が追い、雄同士で激しく戦う。妊娠期間は49〜55日の間で1腹1〜13子で普通3〜5子を巣穴の中で産む。新生子は目が閉じ、灰褐色の綿毛で覆われている。目は9〜14日であき、2週間目ごろから固形食を食べ始める。4、5週で穴から外に出始め、8〜10週で離乳するが、それまでに最低1度は危険を避けるために別の穴に移される。雌は穴の中に約1ケ月こもり、雄がこの間食物を運ぶ。子は3、4ケ月で独立し、親の行動圏から去る。このとき雌は10キロほど離れるだけであるが、雄は40キロまたはそれ以上離れ、394キロも移動した例が知られている。
(狐の人間生活との関係)ヨーロッパでは狂犬病を伝播するといって恐れられ駆除されるほか、家禽を殺す害獣として、あるいはスポーツとしてや毛皮をとるために狩られ、ドイツだけで年に18万頭、北アメリカでは42万頭も殺されている。また、ソ連、アラスカ、および北海道の一部地方では、人の難病を起こす寄生虫であるエキノコックスを媒介するので恐れられている。しかし一方では、ノネズミやノウサギの個体数を調節し、大発生を防ぐ働きが大きいとして、取り過ぎを警戒する声も強い。
 毛皮は婦人の襟巻き、コートなどに賞用される。寒冷な地方の毛皮のほうが大きく、毛も長く密なため優良で、とくにギンギツネが高価であるが、価格は流行に応じて変動が激しく、1920年ごろは1枚平均246ドルもしたのに、72年ごろには18ドルに下落している。しかし、野生のものは品質が均等でなく傷物が多いため、繁殖のものが喜ばれる。繁殖はカナダ、ソ連などで盛んで、日本でも戦前はカナダなどから種蓄を輸入して盛んに行なわれたが、流行が変わったこともあって近年では衰微してしまった。ヨーロッパのキツネが1868年にオーストラリアに移入されたが、またたくまに殆ど全域に分布を広げ、一部の有袋類に大きな害を及ぼしている。
   SONY 『日本大百科全書』 より